2015/1/31

オリンピック・レガシーって何?

~Tokyo2020の未来を考える~ vol.1

オリンピック・レガシーって何?

御三方2.jpg
間野先生1.jpg

原田尚幸氏(以下、H):今日はお足元の悪い中お集まりいただきましてありがとうございます。今日のテーマは「オリンピック・レガシーって何? ~Tokyo2020の未来を考える~」ということで、これからトークセッションを始めていきます。はじめに、オリンピック・レガシーとは何かということについてみなさんと情報を共有するために、間野先生を中心にお話を伺います。そのあと、登壇者それぞれのお立場で問題意識を共有し、オリンピックにはどんなメリットがあるのか、あるいはマイナスな面もあるのではないかと、ご来場のみなさん自身が思っていることも合わせて、ディスカッションの形で話を進めさせて頂ければと考えております。

 

<オリンピック・レガシーって何?>

H:「レガシー」と初めて聞いたとき、私の中では車の名前しかイメージできませんでした。最近よく耳にするようになりましたが、今まで多くのオリンピック大会が開催されてきた中で、なぜ今頃になって「レガシー」という言葉が注目されるようになってきたのか、まずは間野先生からお話をうかがいたいと思います。

 

間野義之氏(以下、M):オリンピック・レガシーとは、近年IOCが最も力を入れているテーマであり、そしてオリンピック憲章の中にも「IOCはオリンピック競技大会のいい遺産を開催国と開催都市に遺すことを推進する」と明記されています。オリンピックを単なるメガスポーツイベントとしてだけではなく、終わった後に何を遺すのかというのをしっかり考えようということです。

 

H:「レガシー」を重視する動きはいつごろからあったのでしょうか。

 

M:これが始まったのは2002年のソルトレークシティ・オリンピックでした。ソルトレークシティは本来1998年に開催したかったのですが、長野に4票差で負けてしまい、次は絶対に開催したいということで当時の招致委員会がIOCに賄賂を贈りました。選手にはフェアプレーを、と言っているのに、実はIOCが招致委員会から金を貰っているということが明らかになってしまったわけです。それ以前に商業主義のオリンピックをアメリカが開催し、その後賄賂まで使って誘致した、このままだとオリンピックはダメになる、ということで、IOCで考え出したのが「レガシー」ということになります。そもそも古代オリンピックというのは、1200年くらい続きました。一方で近代オリンピックは、たかだか100年ほどの歴史しかありません。ちょうど1896年のオリンピックから約100年経ったので、新しいオリンピックの概念、「21世紀はレガシーを遺す」ということを理念に置きました。

 

H:2002年に発案されたとのことですが、実際に「レガシー」が形になりはじめたのはいつごろからでしょうか。

 

M:2012年大会で招致の段階から「レガシー」をしっかり設計して、招致活動を行うことをIOCが定めました。ですから、ロンドンオリンピックが初めてIOC憲章に載った「レガシー」を意識して開催されたオリンピックとなります。

 

H:ありがとうございます。元々1984年に開催されたロサンゼルスオリンピックが商業主義のきっかけになったと言われております。それまでオリンピックは開催・存続まで危ぶまれた状況でしたが、1984年の商業オリンピックの成功によって、オリンピックがビジネス面で儲かるということがわかりました。それが招致活動の過熱につながり、招致を有利に進めるために裏でいろいろとやり取りが始まったようですね。

 

M:はい、それがきっかけです。1956年のメルボルン大会の時から「レガシー」という言葉が使われてはいたのですが、正式に採用されたのが2002年11月のIOC総会からになります。

 

H:「レガシー」を日本語に直すと「遺産」という意味になりますが、IOCの定める「レガシー」も「遺産」と訳してしまってよいのでしょうか。

 

M:「レガシー」には「遺産」の他に適切な日本語がありません。組織委員会でも、長くてもいいから日本語で何か新たな訳語を作ってみようと試みてはいるのですが、なかなかふさわしい言葉が見つかりません。

 

<「レガシー」の由来とは?>

M:「レガシー」というのはもともとラテン語で「Legatus」という言葉が由来で、ローマ教皇の特使という意味になります。つまりキリスト教を布教するため世界各地に特使が赴いて、そこでキリスト教を布教しました。しかし、現地には地元に密着した宗教がある状態で、教会や聖書だけでキリスト教が普及しなかった。それで同時に、当時ローマが持っていた世界最先端の文明や技術、文化を合わせて伝えることによってキリスト教を広めていきました。その特使が帰った後に遺ったものを「レガシー」と呼ぶようになったのがはじまりです。

 

H:では近年なぜ「レガシー」を意識するようになったのでしょうか。

 

M:オリンピック競技大会というのは4年に一度、大会のない4年間はオリンピズムという哲学を普及するための期間になります。そして4年に一度、オリンピズムを体現した心身ともに優れた若者たちが集まって、お互いに讃えあうのがオリンピック競技大会の考え方です。にもかかわらず、最近では世界記録だとか、獲得したメダルの数はいくつだとか、単なるメガスポーツイベントになってしまった。それは違うでしょうと。世界が発展していくためのオリンピズムという哲学を、世界中に普及していくのがオリンピックムーブメントであって、その4年に一度のお祭りが競技大会だと。それが終わった後に何を遺すかということをやっていかないと、おそらくオリンピックは続かなくなってしまう。そのような危機感から、オリンピック招致の際には必ず「レガシー」を盛り込むこと、とされています。

 

<レガシーキューブについて>

H:「レガシー」という言葉の由来から、なぜそれが求められるのかという理由をお話いただきましたが、それらを考える上での一つの視点として、「レガシーキューブ」が間野先生の著書で取り上げられています。間野先生、これについてご説明をお願いいたします。

 

M:レガシーにはポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあります。そしてスタジアムやホテル、日本であれば新幹線のような有形のもの、それに対して心の中に残るもの、記憶などのように無形のものもあります。そしてそれを計画的に作ったのか、偶発的にできたのかということも重要になります。こういった3つの軸で「レガシー」を考えなければいけません。その中でポジティブなものを最大化し、ネガティブなものを最小化していく準備が必要だと言われています。こういった3つの軸プラス時間、空間で「レガシー」を考えていくことも必要です。ともすると、ポジティブで計画的につくられた有形のものばかりに目がいきがちですが、もっと全体に目を配って「レガシー」を設定していくことも重要です。

 

 

*vol.2「Tokyo2020の未来を考える」こちら

*当日配布したパンフレットはこちらからダウンロードできます。

© All Rights Reserved by SOJ