vol.156

6万3551人。これは、6月3日に埼玉スタジアムで行われたサッカー日本代表アジア最終予選オマーン戦の入場者数です。

11万5407人。これは、5月27日に東京競馬場で行われた競馬、日本ダービー当日の入場者数です。

一体なぜ、これほどまでに多くの人が競馬場に足を運ぶのでしょうか。
今回は、スポーツとしての競馬の魅力に迫ります。(渡辺)

++ マイレポート ++

日本ダービー ~7252頭の頂点~



5月27日(日)、天候快晴。ファンファーレが鳴り響き、11万人の歓声が18頭の選ばれし三歳馬に送られる。東京都府中市にある東京競馬場は1年で最も盛り上がる時を迎えていた。「最も幸運な馬が勝つ」と言われる競馬の祭典、日本ダービーで栄冠を勝ち取るのはどの優駿*ⅰなのか。18頭と18人が多くの人の思いを乗せて東京競馬場2400mを駆け出した。

























 

日本中央競馬会(JRA)には牡馬クラシック三冠競争が設けられており、皐月賞、日本ダービー、菊花賞から構成されている。この3競争に参加できるのは3歳馬でなおかつ去勢されていない競走馬だけであり、サラブレットはその生涯の中でそれぞれ1回ずつしか挑戦することができない。この3冠競争を全て制することは非常に困難であり、長い近代日本競馬を振り返っても7頭しか存在しない。今回それに挑戦できる唯一の権利を得ているのが2番人気、芦毛の雄大な馬体ゴールドシップである。前走皐月賞では内田博幸騎手の好騎乗で見事優勝。ロングスパートに耐えられるその脚は東京競馬場の525.9mの直線でも十分に適応すると思われる。皐月賞ではアクシデントもありゴールドシップに2馬身差をつけられての2着。しかし実力を評価されての1番人気、ワールドエース。父は無敗の3冠馬ディープインパクト。その末脚*ⅱは剃刀のようにキレがあり、東京の長い直線で末脚が爆発すれば世代の頂点が見える。3番人気にはディープブリランテが名を連ねる。能力は上記の二頭に匹敵するが父ディープインパクト譲りの激しい気性が災いし惜しいレースが続いていた。主戦騎手には名手岩田康誠。前年のJRA最多勝利騎手であり、今年は既に国内最高峰のGⅠで2勝している。地方園田競馬場からJRAに移籍して7年目、毎年のように活躍しているがまだ日本ダービーでは勝てていない。ダービー前、騎乗停止中に岩田騎手はディープブリランテの調教師、厩務員などと毎日話し合い万全な状態でレースに臨めるよう全力を尽くした。



上位人気3頭の他にも前走を日本レコードで快勝したトーセンホマレボシと外国人騎手ウィリアムズ、東京競馬場では負けなしの漆黒の馬体フェノーメノと蛯名騎手、2歳王者アルフレードと天才武豊などそうそうたるメンバー。どの馬が勝ってもおかしくない。激戦が予想された。レースは人気薄のゼロスが逃げる展開。それをトーセンホマレボシが追う。人気のディープブリランテと岩田康誠は前でレースを進め、ワールドエース、ゴールドシップは後方からの競馬。各馬が自分のレースをするために激しい位置取りを行う。逃げる2頭の作るペースに縦長の展開になる。各馬がバックストレートを快走する。最終コーナーに入っても先頭二頭の勢いは衰えない。そして勝負の直線525.9m。トーセンホマレボシが早々にゼロスを抜き去り先頭に立つ。ほぼ同時に好位から名手岩田とディープブリランテが上がってくる。ワールドエース、ゴールドシップはまだ馬群の後方で伸びない。残り200mを切ったところでついにディープブリランテがトーセンホマレボシをとらえ先頭に躍り出る。粘るトーセンホマレボシだが徐々に離される。さらに後方からは東京コース負けなしのフェノーメノが鋭い末脚で迫ってくるが先頭のディープブリランテとの差をなかなか詰められない。直線も残りわずか。ワールドエース、ゴールドシップの2頭がようやく上がってきたが先頭には届かない。これで終わりかと思ったが最後の最後でフェノーメノが再度伸びてくる。ディープブリランテとフェノーメノが並んでゴールを駆け抜けた。


どちらが勝ったかわからない。蛯名騎手と岩田騎手の表情はまったく同じように見える。お互い不安と安堵感が混じり合ったようなそんな表情だ。先に3着~5着までの順位が映し出され、3着には前で粘ったトーセンホマレボシ、4着は1番人気ワールドエース、5着は2冠を狙ったゴールドシップとなった。しばらくして歓声があがった。1番上には10番、ディープブリランテの番号があった。2着には懸命に追いすがったフェノーメノ。ハナ差での2着であった。
鞍上の岩田騎手は込み上げてくるものを抑えきれずに泣いていた。それを察したように立ち止まるディープブリランテ。岩田騎手は優しくディープブリランテの首元を撫でる。1頭と1人。そこには確かな「絆」が出来上がっていた。そして会場全体から巻き起こる11万人の「岩田コール」。それは勝利したからこそ味わえる最高の祝福であったに違いない。2分23秒の激闘はディープブリランテと岩田騎手の勝利で幕を閉じた。


競馬はギャンブルでありスポーツでもある。競馬には他のスポーツと同様に感動があり、興奮があり、涙がある。そして競走馬の数だけ物語がある。興味のある方はまずは競馬場に行って生の競馬を見て欲しい。そこにはギャンブルではない競馬の魅力が溢れている。



























*ⅰ優れた馬のこと。

*ⅱ 最後の直線で他馬を抜き去ることのできる脚。


宮下 雅史

© All Rights Reserved by SOJ