人間が人間らしく生きる最大のツール

天野春果氏(川崎フロンターレ プロモーション部長)インタビューvol.3

2015/6/22

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vol.1 フロンターレを「おらが町のクラブ」に

vol.2 既に来シーズンのイベントを考えている

 

 

■スポーツは「ヒューマンライン」

 

――天野さんの留学先であるアメリカでは、地域によってスポーツに対する意識に差はありましたか。

 

「大きな差はありませんでしたね。アメリカはスポーツの活用や、スポーツの社会的な位置づけ、スポーツ文化がしっかりしています。アメリカ人はスポーツが人々の生活を潤して、心身ともに健康になると分かっています」

 

――日本でのスポーツの社会的な位置づけはまだ低いままですね。

 

「逆に言えばこれからですよ。ここから新しく作っていけるものだからすごく楽しい」

 

――スポーツの存在が大きくなると、代わりに失うものがあると思いがちです。

 

「スポーツは水道や電気のようなライフラインではないので、スポーツがなくても人間は生きていけます。スポーツは人間が人間らしく生きるために必要なもの、つまり『ヒューマンライン』なんです。食文化や音楽、芸術も同じで、なくても生きていけますが、あると幸せになります。人間だけに与えられた生活を豊かにする要素なんです。スポーツもそのひとつですが、日本には食文化に音楽、芸術、芸能もある。スポーツだけがないんです。これは日本が特殊というわけではなくて、まだ活かし方を分かってないだけ。万国共通の『ヒューマンライン』なんです。その活かし方しだいで、日本人はもっと幸せになれるし、スポーツが発展すればビジネスチャンスにもなりますよ」

 

■ライバルは県内のチームではない

 

――サッカーは野球やバスケットボールとファンの取り合いになりませんか。

 

「その問題を解決するには季節を変えればいいんです。ある時期はバスケットボールを応援して、それが終わったらサッカーも応援して、というように年間通してスポーツに満ち溢れた人生を送れます。取り合いではなく、両方あった方がいいと考えるんです。楽しみがたくさんあって、おらが町のクラブをずっと応援していられるんですから」

 

――Jリーグで言えば、神奈川県には全国で最も多い6クラブが共存しています。それらとファンの取り合いにはなりませんか。

 

「神奈川県にはチーム数が多いというのは、全く気になりません。川崎市は人口144万人で、横浜は300万人もいるのになぜ取り合いになるのでしょうか。僕らのライバルは他のチームではなく、みなとみらいやお台場といった娯楽や、レンタルDVDのようなエンターテイメントです。ロンドンには大小20ものプロチームがある。神奈川県の取り合いなんて話にならないですよ」

 

■スポーツ文化浸透のカギはカレッジスポーツ?

 

――天野さんの野望はなんでしょうか。

 

「僕の野望は日本でスポーツ文化を確立することです。スポーツの社会的ステータスをもっと上げて、日本人に『スポーツって心身共に健康になるから絶対必要だよね』という意識を根づかせたい。先ほど言った通り、『ヒューマンライン』としてのスポーツを作りたい、という気持ちがある。ただ、それはJリーグだけでは無理ですね」

 

――Jリーグ以外に必要なものがあると。

 

「この国の発展のカギはカレッジスポーツだと思います。野球にしろ、Jリーグにしろ、いい選手は海外へ行ってしまう流れは今後も止められないでしょう。やはりスポーツの最先端は海外ですからね。それならスターの原石がたくさんいるリーグにすることを考えてみるんです。Jリーグに入る前の選手たちは自分たちの下部組織にいる人間か、高校生や大学生になります。その中でも特に大学サッカー、つまりカレッジスポーツをアメリカのようなビッグビジネスにして、もっと注目を集めればいい。加えて大学がアメリカと同じように地域に密着して、街を背負って戦うようになっていけば、地域振興や地域活性化にスポーツが役立つし、Jリーグの理念が大学を通して実践できますよね」

 

――いまの大学サッカーはJリーグや高校サッカーと比べてほとんど知られていません。ビッグビジネスに成長させるのは可能でしょうか。

 

「おそらくその流れを作れると思います。なぜなら少子化が進む中で、大学は生き残っていかなければなりません。ではどのようにすればいいのか。山梨学院大学が箱根駅伝で有名になったように、スポーツはひとつの選択肢なんです。多くの大学がイメージを良くするために昔からスポーツを使っています。その考え方でやればいい。大学生にはオリンピック選手が数多くいるし、クオリティは高くて競技レベルとしては十分。観戦者ターゲットとして大学生を見たときにも、自立した生活を送っている者も多く、自分で使えるお金と時間を十分に持っている。比較的動かしやすいんです。日本の明るいスポーツの未来はカレッジスポーツが握っていると思ってます」

 

■「人間が人間らしく生きる最大のツール」

 

――最後の質問です。天野さんにとって「スポーツ文化」とはなんでしょうか。

 

「『人間の生活を豊かにするもの』ですね。スポーツは人間が人間らしく生きる最大のツールです。そして、若い人たちにはそういう見方を持ってスポーツ界に入ってきて欲しい。スポーツを学ぶ環境は増えましたが、まだスポーツ界に入ることが目的になっている人が多い。大事なのは入ってから何をするか。それを考えたら勉強ばかりではなくて、アルバイトを極めて店長になるような経験をした方が絶対に将来役立ちます。結局モノを動かすのは人の力です。ぜひ僕らと一緒にスポーツ界を変えていきましょう」

 

 

*このインタビューは2015年2月25日に行われました。

取材:清河衆、後藤啓介、酒井翼、佐藤智哉

文:酒井翼、舩木渉

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