既に来シーズンのイベントを考えている

天野春果氏(川崎フロンターレ プロモーション部長)インタビューvol.2

2015/6/15

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■「見に来てくれた人たちを幸せにするため」の存在

 

――フロンターレは、新加入選手にバナナを被せて企業のPRに繋げたり、ハーフタイムに陸上トラックでフォーミュラカーを走らせたり、次々と斬新な企画を打ち出しています。他のクラブとの大きな違いはどこにあるのでしょうか。

 

「他のクラブとうちの違いは、プロモーション部があるかないかです。一般的にJリーグクラブの事業部と呼ばれているのは営業、広報、運営、そしてホームタウンの4つが柱になっていますよね。では、みんなが来たくなるスタジアム作りはどこの部署がやるのでしょうか。営業は看板を出してくれるスポンサーをとってこなければならないし、広報は取材対応や選手がらみのプレスリリースを出さなくてはならない。運営はスタジアムを安全に進行することで手一杯。つまり、見に来てくれた人たちを幸せにするための専門部署がありません。従って、多くのクラブはプロモーションの重要性は分かっていても片手間でやらざるを得ない状況なんです。プロモーション部があることの利点は、この部が他の部署とのハブとなり、営業展開にも広報展開にもいい影響を及ぼすことができることです。プロモーション部が展開するイベント企画から付き合った企業がクラブのオフィシャルスポンサーになったり、クラブスポンサーをしている企業がそのメリットを感じていない場合、プロモーションに絡めて企業露出を面白く展開したり。実際、銭湯利用促進プロモーションの企画で関係を持ったNHK Eテレ番組「みいつけた!」のアートディレクター・大塚いちおさんは、企画終了後にフロンターレのアートディレクターに就任して、今季のユニフォームデザインや数々のグッズを手がけています。スポンサーや地域をもっと活用して、それを営業やクラブイメージアップ広報に繋げていく部署がないのがJリーグクラブの現状と言えます」

 

――独特の部署ともいえるプロモーション部は実際にどのような体制で動いているのでしょうか。

 

「プロモーション部は画期的で、この部の中に『広報部隊』も入っています。『集客プロモーショングループ』と『広報グループ』があって、実行するプロモーションを考えたら、集客イベントを実際にやるグループと、それをどう事前告知するか考えるグループが僕の配下にあって、スピーディーに動ける体制にあります」

 

――独自の仕組みを採用していても、企画のアイディアが尽きる可能性はありますよね。

 

「結局僕たちがやっていることはサッカーではなく、町おこしです。そのためのアイディアはたくさんあります。サッカーというカテゴリーで何か企画しようと思っても、いいものは生まれづらい。サッカークラブだから『サッカー』というカテゴリーにこだわるのではなく、世の中に星の数ほどある面白いものを、どう結び付けて、クラブ発展の企画に加工するかが重要になります。企画がネタ切れになることはまずないですが、その分準備には時間がかかります。ポイントは、『これを活用したら面白い』と早く気付くか付かないか。慣れないうちは、なかなか早く気付けないのだけど、これは経験を積んでいくとどんどん研ぎ澄まされていきます。今年も17試合あるリーグ戦ホームゲームで何をやるか、シーズンスタート前の段階で全て決まっているんです。あとはその中身をしっかり濃くしていくだけですね」

 

――ということは、企画自体は前年度中に固まっている。

 

「今、僕が準備しているのは来年、2016年の準備です。2016年はクラブ創設20周年なので、単純な企画ではうちのサポーターは納得しませんからね(笑)。昨年から2016年の大きな企画のために動いてきました。あまりに大きすぎて、いまから動かしていかないと本当にできるかわからない。それくらいのスパンじゃなきゃダメですね。人の心を動かすのは簡単ではないと思っています」

 

――それだけ多くの大きな企画があると、先ほどおっしゃられたように実行プロセスが重要になります。フロンターレでは発案から企画が採用されるまで、どのような仕組みになっているのでしょうか。

 

「部下にはまず、決まったフォーマットの『企画書』と実行日までの『逆算カレンダー』を必ず作らせます。企画書を書いて自分の考え方を整理し、具体的な実行案をまとめられなければなければ、できるかできないか、面白いのか面白くないのか分からない抽象的でモヤッとしたまま進行することになります。また、結局仕事は逆算なので、ゴールから全て逆算して考えていかなければなりません。ゴールに向かって自分の進行は順調なのか、遅れているのかハッキリと把握すること。仕事で最も大事なのは『モヤッ』とさせないことです。部下に対して『モヤッと進めるな』と口酸っぱく言います。途中でつまずくことも当然ありますが、モヤッと進めていなければ問題点は明確になるし、リカバリーもききやすいですからね」

 

――どこかで一度失敗しても、元の企画書まで戻るには、より長い時間が必要になります。

 

「多くの人が行き詰るのは、そこに余裕がないからです。ひとつのやり方で失敗すると、もう時間がなくて全くできなくなってしまうことがよくあります。僕もイベントのプロモーションを進行していく過程でつまずくことがあります。でも早く動き出しているから、また違うやり方でリカバリーできる。最終的なゴールはひとつでも、そこまでのプロセスは何通りもあるわけで、選択肢をたくさん持っていれば成功する確率は上がります。そのためには時間が必要というだけです」

 

■「20試合あれば20通りの収穫がある」

 

――天野さんはどんなところに注目しながら試合を見ていますか。

 

「まずお客さんの反応や、観客席の雰囲気を見ます。どういった時にどんな反応をしているのか。初めて観戦に来た人たちが多くいるエリアとコアな人たちのエリア、場所によって盛り上がり方も全然違うんです。実際、そこが大事になります。どういう『空気』が漂っているか。『負けた時ってこのエリアからこういうブーイングが出るんだ』とか、『ここの人たちは温かいんだな』とか、『初めて見に来た人たちは帰るのが早いな』とか。僕らが考えている以上に、凝った演出をしてもまったく興味を示さない人もいます。そうなると、その人たちの心を動かすにはどういう内容とタイミングで仕掛ければいいのかを考えますよね。勝っても負けても収穫があって、20試合あれば20通りの収穫があります。それを自分自身で『体感』しておくことが重要です」

 

――観客の反応が次回以降のプロモーションに活かされているわけですね。

 

「スタジアムでは多くのファン、サポーターと話すようにしています。顔見知りになると、どんどん声をかけられるんです(笑)。時間はとられますが、アイデア、意見、提案、クレームも含めて、いろいろな人に言われることが大事で、そういうのを全て謙虚に受け入れる。そこから導いた考えを形にすることが大切なんです。お客さん目線、来ている人の感覚は、自分が良かれと思っていることと違う時もある。そこのブレがないようにしていかなくてはなりません。僕は自分の考えや繰り広げる企画に自信はありますが、過信や慢心はしてはいけないと自分自身に言い聞かせて活動しています」

 

■「多くの人に来てもらえる仕掛け」が詰まった新等々力の可能性

 

――今シーズンからホームスタジアムである等々力陸上競技場のメインスタンドが新しくなりました。それに伴ってプロモーション自体にも変化はありますか。

 

「当然変化しますね。まずメインスタンドができることで観戦環境がこれまでと全く違うものになります。お金を払ってでも良い席で見たいという人にチケットを買ってもらうことで、収益が上がるんです。いままではお金を払ってもらいたいのに、金額に見合う設備がなかった。さらに、イベントを開催できるスペースも増えて、プロモーションの幅が広がりましたね。これまでのフロンパークでは雨が降ると中止になってしまうイベントもありましたが、室内を活用できればそれも減ります」

 

――スタジアムの改修工事は今後も続いていきます。完成後に何をするかというイメージも、普段のイベントと同様すでに出来上がっているのでしょうか。

 

「等々力競技場の工事は、周辺整備も含めてまだ全体の4分の1くらいしか終わっていなくて、ゴール裏とバックスタンドの改修は東京五輪より先の終了予定です。全て完成した時はすごいと思いますよ。箱を作ったからお客さんが入るわけではないですが、多くの人に来てもらえる仕掛けが詰まっています。企画のアイディアもすでにあるんですよ」

 

――とはいえ、新しくなることで問題点も出てくるのではないでしょうか。

 

「メインスタンドの改修によって座席数が約7000席増えましたが、それに合わせて観客が一気に7000人増えるわけではありません。最初は絶対に空きがでます。特にバックスタンドの指定席に座っていた人たちがメインスタンドに流れてくる。でもテレビに映るのはバックスタンドなので、空席ができるのはイメージ的にあまり良くない。そういう問題点はあると思います」

 

――それをどのように解決しようとお考えでしょうか。

 

「バックスタンド側の良さは声を出すサポーターが醸し出す『臨場感』と選手との距離感です。勝った後、選手たちが集まるセレモニーもバックスタンド側なので、そこを売りに広報していくことですね」

 

■「初めて行くスタジアムが全て」

 

――サッカー関係者の皆さんは、よく「サッカー専用スタジアムがいい」と口にしています。天野さんはどのようにお考えですか。

 

「観戦する場合、もちろんサッカー専用の方が臨場感はあります。一方で、ないものねだりをしても意味がありません。川崎市は狭いので、等々力以外に大規模な陸上競技大会を開催できる競技場がないんです。等々力緑地の中に新しい競技場を作りたくても、都市公園法で規制されてしまいます。無理なことを言い続けても無駄なので、考え方を変えて陸上と兼用でも臨場感のあるスタジアム作りに考えをシフトチェンジしました。陸上トラックがあることでできる面白いイベントをやるんです。例えばF1カーを走らせたり、西城秀樹さんに歌ってもらったり」

 

――たしかにF1カーをサッカー専用スタジアムで走らせるのは不可能ですね。

 

「来場者全員がサッカー専用スタジアムがいいと思っているわけではないですよ。初めて観戦する人には、初めて行くスタジアムが全てです。その時『このスタジアムいいな、面白いな、居心地がいいな』と思ってもらえればそのままファンになる。『サッカー専用だ』と言っている人たちの意見もわかりますが、色々手を尽くした結果、現状では実現不可能と分かったものをいつまでも追っかけていることが、ファン、サポーター、地域のためになるのか、ということ。陸上と兼用でも街のシンボルとなりえる素晴らしい空間を創る。これも陸上競技場で、そういうものが日本にないから言われるので、やはり前例をつくることが大事だとおもって取り組んでます」

 

*vol.3 人間が人間らしく生きる最大のツール

 

*このインタビューは2015年2月25日に行われました。

取材:清河衆、後藤啓介、酒井翼、佐藤智哉

文:酒井翼、舩木渉

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