2015/6/8

フロンターレを「おらが町のクラブ」に

天野春果氏(川崎フロンターレ プロモーション部長)インタビューvol.1

1431705729890.jpg
1431705723884.jpg

昨今、地域密着の重要性が叫ばれるプロスポーツクラブ。この言葉が頻繁に使われ始めたのはJリーグが開幕してからだが、中でも「地域貢献度5年連続1位」と高く評価されているのが川崎フロンターレ(以下、フロンターレ)である。

 

さらにフロンターレの2014シーズンにおけるスタジアム収容率の平均は80.4%となっており、この数字もJリーグトップだ。

 

では、なぜフロンターレはこれらのような高い数字を残せているのだろうか。今回はその理由を探るため、フロンターレでプロモーション部長を務める天野春果氏にお話を伺った。

 

■「川崎市は市民の税金で町を良くするための企業」

 

――川崎市内を歩いていると、警察のポスターにフロンターレの選手が載っていたり、至る所にフロンターレのフラッグが見られたり、地域にクラブが根づいている様子がよくわかります。天野さんは、フロンターレが川崎市にある存在意義をどのようにお考えでしょうか。

 

「これはいろいろなところで言っていますが、やはり川崎市を元気にする、市民を元気にする、幸せにする、これ以外にありません。自分たちのために勝っているわけではなく、勝つという手段でみんなを幸せにする。勝てばさらに幸せになるし、2週間に一度のホームゲームで地域の人たちが交流できるお祭りをやって、川崎市全体を幸せにすることが僕たちの存在意義です」

 

――川崎市にはフロンターレ専用の窓口が存在しているように、これだけ地域に根づくには行政との良好な関係は欠かせない要素です。一方で、営利企業のフロンターレと行政の距離が近いことを嫌う人もいるのではないでしょうか。

 

「嫌うというか、行政の中にフロンターレに対する拒否反応はありました。これはなぜかと言うと、営利企業と癒着ではないのか、なんで彼らの言うことばかり聞いているのか、世間から見ればそういう企業も出てきます。でも、行政は地域のためにうちを活用できるんです。川崎市は市民の税金で町を良くするための企業で、我々も町を元気にするための企業という意味でフロンターレと理念は同じです。そう考えれば何の問題もないわけで、大事なのは町を発展させる、町の人を笑顔にするという目的なんです。川崎市がやることを共同でできればいい。ただ、その感覚がまだ日本にはないので、フロンターレが先頭に立って前例を作っていこうと思っています」

 

■「試合に勝てないときでも楽しんでもらえるクラブに」

 

――先ほど、「勝つという手段をもってみんなを幸せにする」というお話がありましたが、人気を獲得するために「強さ」は欠かせない部分なのでしょうか。

 

「強さは愛されるための大きなひとつの手段です。スポーツの世界には勝つか負けるか引き分けしかありません。みんな勝ちたくてやっているけど、スポーツの醍醐味は勝ち負けがあることです。勝っているクラブもあれば負けるクラブもある中で負けるクラブはみんな倒産するのか、お客さん入らないのかとなる。でもそうじゃない。勝つことは大事だけど、経営していくためには、勝てないときでも楽しんでもらえる、応援したくなるクラブにするのが鉄則ですよね」

 

――最近のフロンターレは非常に魅力的なサッカーで観客を惹きつけていますよね。毎試合スタジアムはほぼ満員です。

 

「いまのフロンターレは(大久保)嘉人がいたり(中村)憲剛がいたり、個性的な(風間)監督が独特なサッカーをやっているけど、それは永遠ではない。下がっていくときは絶対ある。もちろん試合を見るのがメインだから、そこで勝てなければ興味や関心は減る。でも経営を悪化させるわけにはいかない。だからそうならないようなクラブ作りをしなくてはいけません」

 

■目指すのは「話のネタにお酒を飲める」クラブ

 

――天野さんはご自身の著書で、クラブ経営を前輪が大きく後輪が小さい「二輪車」に例えています。前輪が「チームの成績や選手の人気」、後輪が「クラブの事業全般」であり、両方が上手くリンクして回転することで大きな推進力となり、クラブの発展に繋がっていくと。

 

「僕はチームの強化に口を出す立場にないので、事業の部分をしっかり磨くしかありません。どうしてもクラブは『前輪』だけに意識を集中しがちになるので、そこはまだ発展途上な業界だと感じます」

 

――フロンターレ以外のクラブも様々なことに取り組んでいますが、それらも「前輪」ありきなのでしょうか。

 

「ヴァンフォーレ甲府やファジアーノ岡山のような地方にあり、予算規模もフロンターレより小さいクラブは、有名選手を獲得できないため、地道に積み上げていく経営戦略でしっかり取り組んでいるイメージがあります。翌年でクラブを終わらせていいわけではないので、その先にどう強固なチームを作っていくかというものが見えてきますね。Jリーグ全体に、J1へ上がらないとお客さんが入らないような感覚がありますが、大事なのはお客さんや地域のニーズがあることです。今後作っていくべきはJ3でも競技力と関係なく、たくさんの観客が入るクラブだと思っています」

 

――フロンターレとしては今後どのようなクラブを目指していくのでしょうか。

 

「フロンターレはJ1で、そのうえ都会のクラブです。都会は冷たいと言われがちですが、地元に愛されていて、人気過ぎてチケットを取りづらいクラブを作れば、周りも『なんで都会なのに地域密着が出来ているの?』となります。Jリーグやサッカーの輪を広げていくためには日本の中では前例を作ることが必要です。だから僕はフロンターレでその『前例』を作っていきたいと思っているんです。新しいカタチ、競技力だけに左右されないクラブ。強ければもっと盛り上がるし、負けても『おらが町のクラブを応援しようぜ』となります。『フロンターレのおかげで町が明るくなってるよな』と言われたい。いつでもフロンターレを話のネタにお酒を飲める、そんなところに向かっていければいいですね」

 

――そこまでいくと単なるスポーツを超越した存在ですね。

 

「あくまでスポーツは娯楽なんです。これもよく言うことですが、サッカーはヨーロッパのスポーツで、ヨーロッパでは民族や宗教の代理戦争というくらいギスギスする。日本の中で、例えば川崎と横浜には歴史的な因縁は存在しないんです。ダービーだからといって『あいつらぶっ殺してやる』なんて気持ちもない。僕だって横浜まで買い物に行きますよ。この国は民族抗争だってないし、基本的に無宗教だし、そもそも争いごとが好きではない平和主義の国。みんなの娯楽として、町の楽しみとして、という方がしっくりくる。『フロンターレのスタイルは特別だ』と言われますが、絶対そんなことはない。どこのクラブだって同じです。僕たちはそれを実践して証明しなければならないと思っています」

 

*vol.2 既に来シーズンのイベントを考えている

 

 

*このインタビューは2015年2月25日に行われました。

取材:清河衆、後藤啓介、酒井翼、佐藤智哉

文:酒井翼、舩木渉

© All Rights Reserved by SOJ